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紅羽、襲われる ④

Author: 紅城真琴
last update Last Updated: 2025-04-15 23:00:54

「消毒に来たぞ」

階段から翼の声がする。

ドアを開けると、消毒とガーゼと包帯を持った翼が立っていた。

「大丈夫だよ。1人で」

「できないだろ。利き腕だぞ」

アハ、そうでした。

私は、おとなしく右腕を差し出した。

「痛っ」

まだ消毒がしみる。

「ねえ、優しくしてよ」

「少し我慢しろ」

わざわざ手当てをしに来てくれているのにどんな言いぐさだと思うけれど、翼の前では本音が出てしまうし、翼は翼で病院で見せるような優しさはない。

でも、これが気兼ねなくいられる理由だ。

「なあ」

ん?

呼ばれて顔を上げると、真面目な顔をした翼がいた。

「何よ」

「犯人、捕まったらしい」

へ?

「随分早いのね」

「20歳の浪人生だって」

「へえー」

翼の話によると、犯人は近くに住む2浪中の男の子。

医学部受験を目指していて、そのストレスから衝動的に犯行に及んだらしい。

「お前、病院の袋に資料入れて持ち歩いていただろう?」

「うん」

ちょうどいいサイズだったし、病院にはいくらでもあるし。

便利に使っていた。

「それを見て、病院のスタッフだと思ったんだと」

ふーん。

まあ、とんだ逆恨みって事ね。

でも、待って

「じゃあ、あの張り紙は?」

「別人らしい」

そんな・・・

「とにかく、もうしばらくはおとなしくしているんだな」

「うん。痛っ」

翼がピンセットで縫合した部分を触るから、つい声が出てしまった。

「何かあれば、すぐに言うんだぞ」

「分ってるって」

「本当か?」

翼は怪しいなって目をしてる。

ったく、どこまで信用がないのよ。

「なあ」

ちょっと真面目な顔をした翼。

「何よ」

「もし、俺のファンだったらごめん」

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    1日の終わり。 あーぁ、今日も忙しかったと1人ぼやきながら、私は借りている駐車場へと向かっていた。日が長くなり、まだ周囲は明るい。 今日は公が当直だから、1人でゆっくりビールでも飲もうなんて考えながら、私は駐車場に近づいて行った。そして、車が見えるところまで来たとき、足が止まった。『山形紅羽』 真っ赤な字で、ただ名前だけ書かれた紙。うわ、気持ち悪い。 一体誰だろう。 個人で借りている駐車場だから、病院の駐車場ほど管理も厳重ではない。 もしかして、翼のファン? いや、まさかね。 さすがにそこまでは・・・でも、なくはない。 とにかく帰ろう。 帰って翼に相談しよう。 紙をはがし、タオルでフロントガラスを拭くと、私は自宅に向かった。***警察に通報しようかとも考えたけれど、思い止まった。 色々うるさく聞かれるのは好きじゃないし、嫌がらせメールや無言電話も以前からあった。 翼のファンに呼び出されたことだって、1度や2度じゃない。そんなときでも、私はただ黙っている。 「あんた何様よ」 「翼くんはあんたなんか好きじゃないのよ」 「どっか行っちゃってよ」 中には手を上げそうな勢いで掴みかかってくる子までいるが、私は無反応を通した。 恋人でない以上、何を言われても平気だった。 だから、今更こんな嫌がらせに負けたりしない。私はこんな性格だから、イジメには慣れている。 小学校の時から、時々イジメられた。 さすがに自分のかわいくない性格を変えようとした時期もあった。 周りのみんなに負けないように精一杯笑顔を作ったり、興味もないくせに話を合わせてみたり、似合いもしないのにおそろいの髪型にしてみたりと自分なりに努力はした。 でも、長くは続かなかった。 嘘をついて自分をごまかすことが苦しくなって、いつの間にか1人になっていた。 無視されるのも、物を隠されるのも、囲まれて小突かれることだって経験すみ。 張り紙一

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    小児科の勤務医となって3ヶ月。 元々研修医としてお世話になっていた病院でもあり、馴染むのに苦労はなかった。 ただ1人、この春赴任してきた小児科部長を除いては・・・本当にあの部長は、今まで出会った上司の中で最悪。 とにかく、私に対する敵対心が半端ない。 そりゃあ、私に問題がないとは言わないけれど・・・「紅羽先生、顔が怖いですよ」外来看護師の沙樹ちゃんが「ほら笑って」と、笑顔を向ける。 はいはい。 今日の私は外来の担当で病棟にいる部長には会わなくてもいいわけだから、ノビノビやりましょう。「じゃあ、始めましょう」 「はい」今日も患者であふれかえる小児科外来から、私の1日が始まった。***「先生、次呼んでいいですか?」 「はい」答えながら、パソコンに向かい必死にカルテ入力をする。 こう見えて、医者って結構激務だ。 診察、カルテ記載、カンファレンスを開いて治療計画を検討したり診断書の作成もして、その間で勉強だってしなくては今の医療についてはいけない。 それに、最近の親はクレイマーも多いから気をつけないとすぐに文句を言ってくる。 特に私みたいにニコニコしない医者には風当たりも強い。 そう言えば2年前、小児科医になると決めた私に翼は驚いた顔をした。 それだけ意外な選択だったのだろう。 けれど公は、「お前らしい」と言ってくれた。 どちらにしても、自分で決めた以上はしんどくても頑張るしかないんだ。***「先生、今夜熱がでなかったら、明日から保育園に行けますよね?」私よりも年下に見える母親が、探るように聞いてきた。「え、明日診察に来ていただいて、良ければ登園OKを出しますが、すでに4日も熱が続いていて肺炎になりかけているんです。本当だったら入院して点滴治療をするところなんですよ」患者は4歳の女の子で、風邪が長引いていてここ数日毎日受診している。 薬のお陰で少しづつ回復してきていて、今朝はもう熱もなくなった。 でも本当ならすでに入院をしていてもいい経過で、どうしても無理だって言うから外来で治療しているのに・・・「明日は、どうしても休めないんです」母親は、とうとう泣き出してしまった。 こういうことも今時珍しくもない。 私はすぐに院内のケースワーカーを呼び、市がやっているサポートセンターを紹介した。「私は医者だから、お子

  • 強情♀と仮面♂の曖昧な関係   私の彼氏、宮城公 ③

    「研修医にしてはいいところに住んでるんだな」ファミレスを出て、宮城先生と2人で家の前まで来た。 きっと翼が帰っているのだろう、家には明かりがついている。「実家な訳、ないよな」色々考えながら探るような言葉を口にする宮城先生。「ええ、違います」フフフ。 良い気分。 さっきまで宮城先生ペースだったのに、今は完全に私のペースだ。「良かったら寄っていきますか?」 「嫌、でも・・・」最初は送るからと言われ流れでここまで来てしまったが、私は宮城先生を驚かせたくなった。「コーヒーくらい入れます」 「うん、じゃあ」やっぱり気にはなるらしい。***鍵を開け玄関の中へ。「ただいま」 「お帰り」入り口で立ち尽くす宮城先生。 すると、何も知らない翼が顔を出した。「遅かったな」次の瞬間、 「ええ」 「あっ」 男性2人の声が重なった。よし、勝った。 私はガッツポーズでもしたいくらい。 一方、驚いて声も出ない宮城先生。「お前・・・」 翼は私を睨んでいる。驚かせてごめん。 私が手を合わせて謝ると、翼は肩を落として見せた。「宮城先生、ごゆっくり。失礼します」 一方的に言って、翼は消えていった。「先生どうぞ。2階です」驚いている宮城先生を、私は部屋に案内した。***「シェアハウスって事か」2階に上がった時点で、先生も状況を理解したらしい。「まあそうです」 「随分と大胆だな。変な噂でも立ったらどうする?」 「別に気にしません」何、嫁入り前の娘がとでも言う気? バカらしい。「で、コーヒーは?」 「ああ、そうでした」好き嫌いの激しい私は、食べられないものが多い。 その分好きなものにはこだわりがあって、コーヒーもその1つ。「ブラックでいいですか?」 「ああ、ありがとう。あれ、豆から挽くのか。こだわってるな」 「ええ、ちょっと待ってくださいね」どうしてもインスタントを飲めない私は、家では豆から引いてコーヒーを入れる。 面倒くさいけれど、やっぱり美味しいから。「うまい」 いつもの診察室で見せる優しい笑顔。「ありがとうございます」「ねえ、これは?」宮城先生は壁一面に作り付けられた本棚にぎっしり並べられた本を手に取る。「私の趣味です」 「へえー」並んでいるのは全部医療物。 小さい頃から、私は医療物

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